嘘つき達の表の顔を垣間見る「オモテ小説」↓

熱血下心

「ぜひヤラせていただきます」

女子バレーへの情熱を捨てきれずにいた杉田潤一(46)は、真っ直ぐな眼で答えた。
担当者は、安堵しながらも申し訳なさそうに続けた。

「ただし、杉田さんには、チームの指揮を執るフリをしながら
バレー部を廃部に追いやってほしいんです」

そう、彼はその女子バレー部を潰すために送り込まれた人間だった。
会社は、2部リーグで万年最下位争いを繰り広げるチームを、
これ以上、お荷物にしておくわけにはいかなかったのである。
前任の監督がクビを切られ、監督経験のない杉田に声が掛かったのは、
偶然ではなく必然だった。

「次期リーグ戦で優勝できなければ廃部」

無茶苦茶な通達が、選手たちのロッカールームに貼られたその日、
新任の杉田は険しい顔でコートに現れた。
選手達は、杉田に気付くと、練習を止めて頭を下げた。

「続けろ」

杉田は鋭く言い放ち、選手達から目を離そうとしなかった。
ノートを取り出し、選手一人一人の動きを入念に書き込んだかと思えば、
ハンディカムのビデオカメラで練習風景を撮影した。

その日、杉田から何か特別なアドバイスがあったわけではない。
しかし、後に杉田はこう語っている。

「あの日、俺は選手一人一人の戦力、ポテンシャルを見極めようと必死だった」

その晩に開かれた杉田の歓迎会。
そこで、杉田は会社の思惑をあっけなく暴露してしまった。

「俺は、このチームを潰すために送り込まれたスパイみたいなものだ」

ザワつく選手たちを横目に、杉田は臆することなく続けた。

「しかし、俺はこのチームで優勝を狙うつもりでいる」

杉田の目が本気であることは、誰の目にも明らかだった。
積年の夢だった監督という椅子を与えられた彼にとって、
わざわざ廃部を目指すなどという目標は、端から有り得ないことだった。
杉田は会社に牙を剥く宣言をした。

会社の役員が練習を見守る時は、選手への指導はおざなりに済ませた。
顎で指示を出し、椅子から一歩も立ち上がろうとしない。
しかし、その社員が体育館から姿を消した瞬間、杉田は虎に変わった。
選手への指導は常に熱を帯びていた。

杉田がこだわったのは徹底した基礎だった。
中でも、スパイクレシーブを受ける時の構えには異常なこだわりを見せた。
選手一人一人に、肘から手首までのラインが二等辺三角形になるように構える
前傾姿勢でボールを受けさせる。構えが甘いと判断すれば、すぐに選手の腕を取り、自分の懐で構えを強制した。

「こうだ! こうするんだよ!」

また、杉田はコート以外でも、選手達を思いやることを忘れなかった。
私生活で悩みのある選手がいれば、夕食を共にし、深夜まで相談に乗ることも日常茶飯事。またある時は、なぜかユニフォームやスパイクを紛失した選手に、
自腹で新品を新調してあげたりもした。

「これを着なさい」

こうして、コートの内外で選手達からの信頼を勝ち得た杉田は、
弱小だったチームを常勝チームへと鍛え上げていった。

当然、勝ち続けるチームに、会社は「話が違う」と杉田に詰め寄ったが、
それでも勝ち続けるチームに、ついに会社の方が折れた。

「優勝を目指しませんか」

その社長の言葉を、杉田はずっと待っていたのだ。
社長と固い握手を交わし、明日の優勝決定戦で必ず勝利すると約束をした。
杉田の負けられない闘いが、今、始まる。

「いいかお前ら。この試合、真の敵は相手チームじゃない。己自身だ!」